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アルカス

2018-06-24 05:38 失くし物ホラリー占星術(仮題):盗まれた魚/Fish Stolenその10
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こんにちはアルカスです。いつも大変お世話になっております。今回も私の連載記事にご訪問いただき、誠にありがとうございます。心より感謝申し上げます。お話はいよいよ佳境に入ってまいりますが、その前にイギリスの歴史や風俗について全く無知の素人ながら、自分なりに調べた17世紀イギリスの警察と地方治安事情について、ちょこちょこっと書かせていただきます。皆様のご興味を引く内容になりましたら幸いです。

 

 17世紀イギリス、当時のロンドン市長よりも有名と讃えられた偉大な西洋占星術師ウィリアム・リリーの古典占星術の名著「クリスチャン・アストロロジー」から、全35枚の例題ホラリーチャートの中でも人気の「盗まれた魚/Fish Stolen」のチャート解読は、魚を盗んだ容疑者宅へ、被害者リリー氏自ら捜査に入る第10回となります。

 

「買った魚は誰がどこに持ち去ったのか」「魚の完全回収は可能か」

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 stolen fish

 「私は治安判事から令状を取り、2月18日日曜迄それを大切に保管し、その後警官(Constable:この時代では治安官)と水夫(Bargeman)を連れ容疑者の自宅に踏み込みました。」(P398 22行)

 さあ、被害者自ら家宅捜索に踏み切る訳なんですが、いったいなぜリリーさんと魚倉庫を管理していた漁師さん達は、魚が盗まれた事を確認後すぐに警察に出向かなかったのか、ま、現代日本人の感覚では警察に行って盗難届とか紛失届を出すのが普通の行動になりそうなところですが、この辺からお話をさせていただきたいと思います。

で、なぜなのか、という問いへのシンプルな答えとしては

「当時のイギリスに、警察組織は無かった」

1829年イギリスに首都警察法が成立。この法を以てロンドンにロンドン警視庁(スコットランドヤード)が置かれるまで、少なくとも官僚としての警察組織はイギリスに無かったので、になる訳なんですが、えっともうちょっと書きます。じゃあどうやって各市町村の防犯は行われ平和は守られていたのかという問いが続くでしょうから。

 「ヒュー・アンド・クライ(Hue and cry)」のお話をさせていただきます。

ヒュー・アンド・クライとは何でしょう?言葉の意味的には抗議とか大騒ぎとか、そんな意味のようです。しかしまるっと使われる用語としては、当時の法律用語です。当時とは1285年です。1285年イギリス王エドワード1世は先例ならび慣習法、コモン・ローを集成したウインチェスター法を制定しました。そこで治安維持の1つとしてヒュー・アンド・クライが定められました。ヒュー・アンド・クライとは具体的にはどういったものなのでしょうか。

「慣例法においてヒュー・アンド・クライとは、目撃された現行犯を逮捕する為に、偶然居合わせた第三者に手助けするよう呼び集める事。イギリス王エドワード1世認可の1285年のウインチェスター法により、治安官もしくは民間人のいずれかが、犯罪を目撃したならばヒュー・アンド・クライをしなければならないと規定されました。そして街から街、田舎から田舎へと逃走する容疑者に対し、これを逮捕し郡長官(sheriff)に引き渡すまでヒュー・アンド・クライし続けなければなりませんでした。またその声を聴いた全ての健常者は、犯人追跡に協力する義務を負う点において、民兵(Posse comitatus)と同格と見做されました。さらに事実上の集団的懲罰(連帯責任?)の一つとして、泥棒もしくは窃盗犯に対し「全ハンドレッド(※イギリスではハンドレッドとは慣習法において軍事と司法を目的とする郡(shireもしくはcountyと言う。イギリスの古語)の区分であり、一般的に封建制地主の領地区分だった。)は~報告義務を負う」と規定しました。不当にヒュー・アンド・クライを叫んだ者は、その人自身が有罪となりました。」

つまり現行犯を目撃したならば、犯人を追いかけながら「泥棒だ泥棒だ―――!」と叫び続け、それを聞いた人たちは病気その他で動けない人を除き、外に出て泥棒逮捕に協力すべく一緒に追いかけなければいけません、昼夜問わずね。

という話、らしいです。声を聞いたら、直ちに兵隊として外に飛び出し、犯人追跡の列に加わらなければならないと。そういう法律なんです。

どうですこれ(笑)きつくないすかこれ。でもこれって王が勝手に思いついてこうしろって作った法じゃないんです。昔っから伝統的に行われていたローカル防犯自治のスタイルを明文化しただけ、らしいんですね。

 そういう意味で古くから、各人が住んでいる地域の平和に寄与するという意識を持ち、一人一人が事実上の警察官として、一端事あれば住民が全員協力の元、容疑者(犯人)を取り押さえるという義務を負っていた、ようなのですまあ土地柄、というかイギリス人という人たちは。

かなり主体的に自ら動こう解決しようというイメージが、します犯罪に対して。誰かにやってもらうというよりは。事件解決に協力しようとする周囲の人たちの姿勢も親身なものだったのではないかと、想像します。

このウィンチェスター法に遡ること数十年前、ヘンリー3世の治世(1216-72)に、各村各字に一人ないし二人の治安官(constable)が置かれるようになりました。

 治安官の職務は公的な場所での乱闘や武装して騎乗する者への対処、窃盗含む被疑者全般の逮捕と送還、労働条件に関わる法を無視した者の逮捕など、まあ一般住民では手に負えない事件や犯罪者を取り締まる人を置いた、という意味で警察官の先駆け的存在ではなかったかと思われます。1285年のウィンチェスター法でやはり明記されました。

次に治安判事(Justice of the peace)という役職についてなのですが、その原型は12世紀末ごろからと言われています。時の王リチャード1世とヒューバード・ウォルター内相はナイトたちに手に負えない粗暴なエリア、治安の悪い、犯罪が横行している地域の治安を維持するよう委任しました。1327年の法で制度化され、国内全ての郡で任命され配置される役職となりました。ここまで色々呼び名は変わったのですが、1361年エドワード三世の治世から「治安判事」と呼ばれるようになりました。この役職は最初ナイトたちがやってたくらいですので基本無給で、地元の名士つまり上位階級、ジェントリさんたちがやる仕事でした。14世紀以降、治安官は治安判事の統制下に入っていき、16世紀後半、治安判事が地方統治の要に据えられると、システムは一層明確になりました。治安判事は基本裁判官であり、全ての刑事事件における罪状認否を行い、軽犯罪や地方条例違反、規約違反を審理しました。

一方治安判事の下、治安官は街中に出て、地域内で生じた騒ぎの対処、不審者の取り締まり、ヒュー・アンド・クライへの対応と指揮、夜間のパトロール、捜査への協力など現代の警察官とほぼ変わらない職務をこなしていましたが、一つ違っていることがあります。

それは違法行為の捜査を自ら実施し、犯人・容疑者を発見・逮捕、告発する事務書類を提出する等は、彼らの仕事とはみなされなかった、という点です。

あくまでこれらは被害者個人の行う仕事でした。被害者が犯人を捜しなさいと。捜査は被害者がやんなさいと。

ん~~

大分きっついすねえ(笑)ヒュー・アンド・クライもきついですがこっちもなかなか。

 

但し、治安判事が治安官を使って違法行為者の発見を助力させることは可能でした。つまり被害者が加害者発見に至った経緯なり証拠なり、治安判事に認めさせることが出来れば、令状が出て、派遣された治安官と一緒に加害者の家に向かい、窃盗捕縛人の権限を有する治安官に逮捕してもらうこともできるよと、そういうお話なのかなと。

となればリリーさんが魚泥棒を自ら探し、ちょっと怪しいなと思われるお宅を発見し、案件を治安判事に話し、令状を取り、日曜まで待って派遣してもらった治安官と、水夫さんと一緒に容疑者宅に踏み込んだという流れは、この時代のイギリスで法律に則った、被害者がすべき一連の手続きだったのかもしれません。

現代の警察その他の防犯体制に守られて暮らす私たちからするととんでもない事ですが、古くから継承されてきたイギリス人の意識、地域の治安と平和に一人ひとりが責任を持ち、身に降りかかったトラブルは周囲の助力を借りつつ、基本は自分たちで解決しようと能動的に動く意識が、17世紀のハーシャムあるいはロンドンで生きたリリーさんの中にも、当たり前に備わっていたのではと、想像します。

「自分で探す・捜査する」が当たり前の事と認識されていたリリーの時代、「クリスチャン・アストロロジー」P319からP366まで計48ページ余りに亘る盗難関係の暗示・証明の詳細かつ充実した内容は、まさにホラリー鑑定を望む客のニーズに則ったものだったと言えるのでしょう。実際にかなりの盗難・窃盗に関する相談があったと思われます。

 

 

今回は全くチャートの事についてお話ししませんでしたね。すみません。

全く簡単ではありますが、中世イギリスの治安事情、治安判事、治安官の事について、私なりに調べましたところをお伝えさせていただきました。

この件に関し、詳細な情報を出してくれておりますwebサイトと研究書に心より感謝いたします。この連載記事の最終回に参考webサイトおよび参考文献を記載させていただきます。

 

アルカス